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描かれた病 -疫病および芸術としての医学挿絵-とは
出典:描かれた病 -疫病および芸術としての医学挿絵-
カラー写真がまだなかった頃、病気にかかった人や臓器などを細密に描いた挿絵がこれでもかと紹介される一冊。
表紙にもなっている上の女性はコレラにかかって1時間後の姿。キャプションには4時間後に彼女は死亡したと書いています。
コレラにかかる前の絵もあり、キレイな女性があっと言う間に顔色が悪くなり苦悶の表情になっていて、コレラの恐ろしさがわかる絵です。
私は手術のテレビ番組が好きな子供でした。手術などは大人になるにつれ怖くて見なくなりましたが、今でも感染症や寄生虫などが大好きです。
いや、実際かかってみたいとか寄生されてみたいとかじゃないですよ。念のため。
この本の表紙を見た時、一目惚れしてしまいました。
挿画が描かれた時代
はじめに当時の医療の状況などの解説があります。
この本の挿画が描かれた時代は医学の革命期でした。
19世紀は、
- コッホが感染症が細菌によって引き起こされる事を発見した。
- 後に疫学の父と呼ばれるスノウがコレラは悪い空気からかかるのではなく「汚染された井戸の水を飲むことで感染する」と発表し、井戸を封鎖して流行を止めた。
- 世界初の合成薬アスピリンができた。
などなど急速に医療が近代化された時代です。
医学生の間で解剖が欠かせないものとなり、学生たちは解剖図を見ながら解剖し医学の知識を学んでいったようです。
死刑になった人の解剖が認められていましたが、大量に解剖用の死体が必要になったので、どうしてもたりません。そこで死体調達人という職業ができ、墓場から掘り返された死体が使われました。また「死体がなければ作ればいい」と思ったかどうかはわかりませんが殺人で死体を調達するなんて悪党も出てくる始末。身寄りのない人の死体を使う事が許されるようになるまで、墓堀りは続けられました。
こんな時代だからこそ、精密な挿絵が必要になったんですね。
写真が発明されてからも、骨折クリニックなど一部にしか普及せず、長い間挿画が使われてきたそうです。
もちろん「白黒だったから」という理由もあるはずですが、この本を見ると
なぜ挿画が使われ続けたかわかるはずです。
当時の事がわかる解説が素晴らしい。
皮膚病、天然痘など病気別の項目に分かれており、病気の解説の後に挿画が紹介されます。
当時の一部の女性は、ファッショナブルな消耗性疾患にかかったふりをして顔に白粉をはたき、コルセットで締め上げてやつれた感じを出そうとさえしていた。
結核が文化に与えた影響は、人々がこの病にかかって死にたいと願ったことにも表れている。
※ 引用者注 ここに記載されている「消耗性疾患」は結核の事
描かれた病 -疫病および芸術としての医学挿絵-
解説で当時の医学の状況、人々が病気に対してどのように思っていたかがわかります。
どの項目も詳しく説明されているので、純粋に当時の事を知る読み物としてすばらしく、興味深く読み進む事ができました。
絵の持つパワーが凄いだけに、絵に集中してしまいがちですが
ぜひ、解説も読んでみてください。
当時の背景を知ることで挿画を見る際により想像力がかきたてられます。
写真よりもリアル
緻密に描かれていて、写真よりリアルに感じる物もすごく多いです。
絵なのに触れるのをためらってしまったり、中にはギョッとするようなものもありますが、グロくなく美しいのです。
なぜだか、もっと詳しく細部まで見たくなる。不思議と惹きつけられるものがあります。
特に印象に残るのが、苦悶の表情を浮かべたり、憂いを帯びた患者さんの表情。
痛みだけではない、病気の苦しみが伝わってくるような気がします。
まとめ
グロではなく、アートである。